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2012年5月28日月曜日

「無理です。なぜ請けたのですか」(谷島宣之=日経BP社編集委員)転載


 営業が仕事を受注してくる。社内で説明する。実際の仕事をこなす技術者や担当者は唖然として冒頭の発言をする。こうした光景はそう珍しくはない。

 「今回の案件をしのげば条件の良い次回案件を取れるはず」「競合に勝つにはこの納期で提案するしかなかった」「知っての通り長い付き合いのお客さんですよ」。

 こう言って営業は現場を説得、いや、制圧にかかる。経営者が営業を兼ねていると「悪いようにはしない。とにかくやってくれ」という決め台詞が出る。営業が経営者に事情を説明して決め台詞を言ってもらう場合もある。こうなったら社員は従うしかない。

 顧客から注文を取り付けるのは簡単ではない。営業には顧客と“握ってくる”力が求められる。適正な価格と納期で握ってくることができれば一番だが、時には、いや、しばしば理不尽を承知で請けざるを得ない。良いとは言えないが一つの経営判断ではある。

 しかし理不尽とは思っていなかった案件が結果として理不尽な受注になってしまったら問題である。経営者が覚悟していなかった危機が会社を襲うことになるからだ。

 こうした危機を回避できるかどうかは営業の腕にかかっている。技術面のリスクを軽減するために営業に技術者を同行させることが多いが、顧客の状況を把握して要求を整理し技術者に的確に伝えるという営業の役目は変わらない。

 そのためには顧客と握ってくる力に加え、価値ある提案を出せる力とその提案通りにシステムを仕上げるようにプロジェクトマネジメントを支援する力が営業に求められる。
(谷島宣之=日経BP社編集委員)転載